2010年07月15日
官僚的文章術の逸品
昨日来の大雨で市内にも道路、山腹等の被害が発生しました。幸い人的被害は現在のところ報告されておらず、ニュースで「新城市に避難者」と報道されたものの、ご近所への自主避難1件にとどまりました。もちろん皆さんご無事です。
土砂災害、大雨両警報も未明から早朝にかけて解除となり、災害対策本部も8:35をもって解散措置をとりましたが、なお引き続き担当部署を中心に警戒にあたっています。近辺で異常がありましたら、ご一報ください。
また報道でご案内のとおり、豊根村富山地区では大きな被害が発生しています。関係住民皆さんの無事と早期の復旧を祈ります。
本日も九州から西日本、東北にかけて豪雨予想が出ています。被害が少なくて済むことを。
さて昨日(7月14日)は全国市長会経済委員会での経産省レポートについて触れたが、本日は同会の理事・評議員合同会議での「一括交付金」に関する問題の報告をしておきたい。
合同会議であいさつする森全国市長会会長(長岡市長)
本問題に関しては、民主党政権での「地域主権改革」を理論面でリードしている神野直彦・地方財政審議会会長(東大名誉教授)が、直々に講演をされた。
鳩山政権最後の「地域主権戦略会議」に、『一括交付金化の基本的な考え方』と題する試案が提出された。神野会長が書いたものだが、いわゆる「ひも付き補助金」を廃止して「一括交付金」にかえる制度設計に関する原則を示したものだ。
同会議で講演する神野地方財政審議会会長
「ひも付き補助金」とは、国の省庁がさまざまな施策実現のために地方に交付するもので、事細かな採択要件があって地方自治体の自由度をいちじるしく妨げると言われているものですね。それを廃止して、代わりに地方の自由裁量で使える「一括交付金」にかえようというのが主旨。
「一括」というのは、これまで各省庁ごと、また省庁内でも縦割りごとに細分され、ときには似たようなメニューが別省庁で組まれていたものを、大きな政策ごとにまとめ、省庁の枠も越え「一括」にして自治体に交付する、そしてそれを何に、どのように使うかは地方の決定にゆだねようとの意味ですね。
神野会長が試案を提示した後、菅政権が発足し、試案を基に省庁間の調整を行ったのだが、昨日の会議で神野会長がレポートしたのは、最初の試案と出来上がってきた成案との「微妙な」違い。
まず神野試案では、一括交付金の原則を次のように記している。
~こうした目的からして一括交付金は、いかなる政策にどれだけの予算を投入し、どのような地域を目指すのかを、住民自身が考え、決めることができるよう、地域が「自己決定できる」財源としてデザインされなければならない。~
これに対して調整された成案では、こうなっている。
~こうした目的からして一括交付金は、各府省の枠にとらわれず、ブッロクの政策目的の範囲で、いかなる政策にどれだけの予算を投入し、どのような地域を目指すのかを、住民自身が考え、決めることができるようデザインされなければならない。~
試案にあって成案ではなくなっている文言は赤字で、反対に試案になくて成案に挿入された文言は青字で示した。
「地域が『自己決定できる財源』」というある種核心的ともいえるものが無くなっている。
一方新たに加えられた、「ブロック(ここでいうブロックとは交付金を福祉とか社会基盤とか大きな政策くくりで区分けしたものを指している)ごとの政策目的の範囲で」という挿入句は、「自己決定財源」が削除されたことと合わせて、かなり決定的なくさびとなって効いている。
「政策目的の範囲」内かどうかは誰が判定するのか。その前には「府省の枠にとらわれず」と書かれているのだから、広い意味の政府の政策目的がここにかぶってくるのは当然で、かつ地域の「自己決定財源」ではない、というのだから、府省の枠ははずすことも可能だが、地方の(住民の)裁量の及ぶ範囲は、あくまでも政府の認定する枠のなかでのものだ、と、表明されていることになる。
これは中央省庁皆さんの執念が結実したものだ。
次に一括交付金の対象範囲についてはどうだろうか。
その基本的考え方において、神野試案では、
「現金給付は国、サービス給付は地方」との原則に基づいて対象範囲を整理する。
としてある。たとえば生活保護費のような現金給付は国が一律に行いなさい、でもケースワーカーをおき、生活相談に乗るなどの(人的)サービスは国がやろうたってできないんだから、住民に身近な自治体にまかせなさい、という考え方ですね。神野会長によれば、これは世界の常識だ、と。
で、成案ではこの部分の記述はすっぽりと削除されて、代わりの文章が入ってきている。
補助金、交付金等を保険・現金給付、サービス給付、投資に整理し、地方の自由裁量拡大に寄与するものを対象とする。
この部分の細かい背景を解説すると「子ども手当て」に関する新たな「基金構想」がからんできて、話がちょっとややこしくなるのだが、とりあえずそれは脇に置いて全体を俯瞰すると、「現金給付は国、サービス給付は地方」との明確な原理線を引くことを排除し、「地方の自由裁量拡大に寄与するもの」を対象とするという、それこそ裁量的価値判断をもって対象範囲を決める、ということだ。
さらに対象範囲の整理方針で、「社会保障や義務教育関係」をどうするのかの、かなりきわどい論点についてはこうなっている。
神野試案では、
民主党マニフェストにおいて「ひも付き補助金」から除くこととされている「社会保障・義務教育関係」についても、基本的に、全国画一的な保険・現金給付に対するものに限定して、一括交付金の対象外とする。
つまり当初は社会保障・義務教育関係は一括交付金の対象外とするとされていたが、あらためて対象外とするのは保険・現金給付に限定するよ、と、一括交付金対象を広げようとしたのが試案。
これに対する成案は、
「社会保障・義務教育関係」については、国として確実な実施を保障する観点から、必要な施策の実施が確保される仕組みを検討するとともに、基本的に、全国画一的な保険・現金給付に対するものや地方の自由裁量拡大に寄与しない義務的な負担金・補助金等は、一括交付金の対象外とする。
と替えられている。ここでも国としての「必要な施策の実施が確保される仕組み」を組み込んで、その範囲かどうかで一括交付金の対象とするかどうかを判断すると強調されている。
さらに、一括交付金事業の事後評価に対する国の関与の項になると、より徹底的。
神野試案ではごく簡単に、
国は、一括交付金の実施状況を点検し、制度の評価・改善をはかる。
とされているのに対して、成案では、
国は、一括交付金の実施状況を点検し、PDCAサイクルを通じて制度の評価・改善を図る。その際、会計検査院の検査も活用する。
と謳われている。
地方での実施状況に対して国は何としても介入する、との強い決意。しかも会計検査院まで持ち出してる。会計検査院の検査は、あくまでも国の支出に対して行うもので、自治体に検査が入る場合でも国が支出した補助金等が適正に執行されているかどうかと検査するもの。
そう、ここで論議はきわまって、「一括交付金」は地方の「自己決定財源」なんかじゃないよ、あくまでも国の支出なんであって、地方の自己規律にゆだねることは絶対に想定しないよ、と大書されているのだ。
制度設計の根幹が違ってきている。
地方分権とか、国と地方との権限争いとか、あるいは「一括交付金」とかの細かいことにあまり興味のない方には、ちょっと煩雑すぎる議論を紹介したようで気が引けるものの、「地域主権改革」がどんな議論のなかで変遷を遂げていくのか、議論の内情をレポートすることでお知りおきいただきたいと思う。
ここで消されたり、加えられたりした字句や文章は、すべてこれからの法制や執行のなかで決定的意味を持つものばかりだが、ちょっと見には微修正の形をとっている。なかなかの逸品です。
神野会長は昨日の報告で、地方側がこれに対してどんな反撃や対応をしていくのか、十分に熟慮して戦略を練ってほしい、と、結ばれたが、まさにその通りだろう。
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